HOWLというバーに、夜な夜な人が集まった。店に入りきらないで、外のベンチに腰かけて飲んだりしてる。毎日が祝祭のようだった。
酒を飲むのは口実、みんなデニーに逢いに来ていた。カウンターで、デニーの動きを見ている、デニーがボソボソと喋るのを聞き逃すまいとしてる、バーにいるというよりも、荒野で焚き火でもしている気分だった。たまにシャンパンを開ける奴がいても、デニーがいるとスノッブさがなかった。
HOWLの開店の日、青山の花屋で花を買って、それを抱いて黄昏にドアを開けた。できたてのバーで、開けたてのカウンターに肘をついて、酒瓶を眺めるなんて、めったにないことだ。ひょっとすると、たった一回かぎりのことだったかもしれない。そのまま、明け方までいて、外へ出ると空が青みがかってた。from sunset till dawn!
「同じ時代に生きて、同じ空気を吸って。もしかしてアメリカのどこかの街角ですれ違っていたかもしれない」というDannyと、“ファクトリー”ことプラム食品を率いる長井保夫さん。その名の通り、プラムに特化したモノ作りに励む長井さんと、星子ひとすじのクリエイションを自負するDannyには共通点も多いようで。星子をめぐる2人のフリートークをお楽しみいただこう。
────2人が初めて会ったのは2003年ごろのことだとか。
長井 モノへの思いが引き寄せた出会いでしたね。
Danny メルシャンが、『星子を作れそうなファクトリーを紹介する』ってんで、和歌山に出向いたんだよ。
長井 はじめは何事かと思いましたよ(笑)。Tシャツにザックをかついでこの人が入ってきて。後から聞いたら、京橋にあるメルシャンの本社でもアロハシャツに短パンだったとか(笑)。でもそこに、自分のスタイルを理解してもらいたいという男気みたいなものを感じたんですね。30数年、ワイシャツにネクタイ締めて、って生活をしていましたから。自分の若い頃のスタイルそのまま、年だけ重ねたようなDannyさんを見て、心底嬉しくなったんですね。
────長井さんも若い頃はアメリカにいらしたんですよね。
長井 あの時代の同じ空気を知っている、それだけでDannyさんにシンパシーのようなものを感じましたね。私はアメリカの大学に留学したんですが、学費稼ぎでアルバイトを初めて。いまでいう登録制の人材派遣サービス業なんだけど、アルバイトを探している学生に犬の散歩からベビーシッターまで、あらゆる職を斡旋していたんです。うまくいったんで試しに企業してみたら、勉強よりもそっちのほうが楽しくなってしまって。結構稼げたもので、かわいいクラスメイトを事務職に据えてあちこちで遊びまくりました。「勉強しないのなら帰ってこい」と呼び戻されて、そのクラスメイトに会社を譲って帰国したわけです。
────それで立ち上げたのがプラム食品?
長井 実は家内の父親が起業したんです。私が入社したのは起業して5年目、一番苦しい時期でした。「こちらには当時、梅干ししかなかった。梅干しだけでは産地の発展は望めない」と、岳父が多額の借金をして、梅干し以外の梅加工食品を開発する会社として始めたんです。岳父のそんな男気に惚れてしまったんですね。
Danny プラム食品の面白いところは、幹部がみんな、職人なんだよね。工場長の吉田さんしかり。しかもみんな世界を見聞きして地元に帰ってきたというバックグラウンドを持っている。
長井 やっぱり知識も経験もある職人じゃないと、Dannyさんの言うことを理解できない。だってそもそも星子の話も、Dannyさんの話を聞いた職人達が『ぜひやってみたい』って言い出したんですよ。詳しくは言えないけれど、工程があまりにも面倒で、おそらくどこも匙を投げたんだね。それがうちの職人連中の魂に火をつけたみたいで。そんなわけで実はね、社内でプラムアカデミーみたいなことを始めようと思っているんですよ。要は職人の養成所。梅に関するマイスターだ!ということをとことん、突き詰めていきたくてね
Danny 職人を育てる。それはモノ作りの根幹だよね。
長井 そうそう、無駄かもしれないけれど、無駄は未来のこやしだから。無駄な遊びにどんどん手を出していこうと思っています。無駄を知っているモノ作りは粘り強いからね。
Danny レディと一緒だね。みんなが狙っているレディは絶対、狙わない。やっぱりあえての横道をいかないと(笑)。
長井 消費される産業に従事する僕たちはみんなが向いている方向じゃなく、あさって、もしくは真逆の方を向いてこそ。『天の邪鬼経済学』って言ってますがね(笑)。Dannyさんもそう、決してみんなが向いている方向を向いていないでしょ。とはいえ、そっちを向き続けるには、それなりの理念と覚悟、そして勇気が必要なんですけれども。煙たがられるしね。
Danny 年をとったら、イヤな奴になったもの勝ちだよ。
────天の邪鬼たちのモノ作り、今後の見通しはどうですか。
長井 日本の経済は異常なスピードで成長してしまって、内実が伴わないところまで進んでしまった。モノの価値観はこれから変わっていくと思いますよ。同じモノを同じ手順で作っても、場所が違えば価値は異なる。それは作り手が異なるからです。日本らしいモノ作りを維持していくうえで、そういう価値観をきちんと世界に発信していかねば。
Danny モノ作りはストイックな作業だし、そこにはソウルが必要だからね。
長井 そうそう、モノ作りには自分の理念が大切なんです。モノへの思いの一途さ、それこそが、これから問われる価値観だと思う。星子みたいにね。軽薄なモノ作りは所詮、短命に終わりますから。星子を見ているとね、モノ作りは時間がかかるってつくづく思います。人間と一緒。その人を熟成させるのに、必要な年月ってものがあるんです。その時間が、人に深みや味わいを与える。そうですよね、Dannyさん。
Danny だから俺たちはロマンティスト変態なんて言われるんだな。
長井 そうそう。そして、たとえどんなに年をとってもおしゃれなものをぱりっと着こなして、背筋を伸ばしてさっそうと歩き、いつまでも自己表現していきたいですからね。
星子2005年のファーストリリースから、これまで雑誌紙面等に星子とその製作者Dannyをご掲載いただきました一部を、バックナンバーとしてご覧いただけるようにまとめました。
今回は5誌。星子とその作者Dannyの歩みを知る機会になっていただければと思っております。
(上左/SEVEN SEAS、上右/ROYAL ROAD)
“視線を向けるとき、人は傲慢になる。視線を向けられると、臆病になる。その視線がなくなったとき、そこに残るのは何なのだろうか”(左/SEVEN SEASより)
星子を使ったモヒート感覚のカクテル「星の音(ホシノオト)」(右/LEON)
“オリジナルカクテル「ホーホケキョ」で世界の酒飲みを鳴かせてみせる”(右/芸術新潮より)
神宮前2丁目特集にて「覚悟を決めて扉を開けば、広がる世界がココにあり」(左/Hanako FOR MEN)
過去のイベント「星子NIGHT」、恵比寿のBAR「TRENCH」にて。
これまでのHPで紹介された記事など、今後も更新いたします。SNSもぜひご覧ください。
今年5月、中目黒にオープンしたワイン専門店「ワインストア」。
先日発売された雑誌『ブルータス』酒場特集や『料理通信』でも取り上げられるなど、いまワイン好きの間では話題のお店です。
ここの特徴は何と言っても、試飲、角打ちができること。「角打ち」とはもともと北九州の方言で、「酒屋の店先で酒を飲むこと」を意味します。
ワインストアでは抜栓料500円を支払うと、購入したワインを奥のスペースでいただくことができるのです。店内にはサラミやチーズ、オリーブなども販売しており、これまたおつまみにぴったり。
そしてもちろん!我らが星子も扱っていただいています。
Dannyもオープニングパーティにおじゃましたのですが、居心地のいい店構えにすっかりファンになったようです。
ぶらりと立ち寄って、気になるお酒をカジュアルに楽しめる。こんな角打ちスタイルが、これからの東京のスタンダードになりそうです。
ぜひ「ワインストア」にお立ち寄りください。